こくほ随想

「『地域』がキーワード」

日頃、社会保障の分野を取材していて、「地域」が一つのキーワードになっているのを感じる。
例えば、介護の分野では、今国会に提出された介護保険法改正案に、「地域密着型サービス」の創設がうたわれている。

 

これはどんなサービスかというと、地域の特性に合ったサービスのことで、市町村が責任を持って整備し、サービスの利用は、その地域の住民に限るとしている。

 

具体的には、「小規模多機能型」と呼ばれる「通い」や「泊まり」の機能を持つ少人数の拠点型のサービス、認知症の高齢者が共同で暮らすグループホームでのサービス、夜間や緊急時にホームヘルパーが利用者宅に駆けつける訪問介護サービス、自宅で暮らす認知症の高齢者向けの見守りサービスなどである。

 

地域密着の構想が出てきた背景には、「年をとっても、住み慣れた地域で、できるだけ長く暮らしたい」という住民の願いや、「介護サービスはそもそも、一人一人に目が行き届くように、小規模で、しかも住民に身近な地域で行われた方がよい」といった考え方がある。

 

もちろん、よいことずくめではなく、地域限定にすることによる混乱や弊害、また、地域格差が広がることへの懸念も聞かれるが、「地域」が改革の一つの方向性を指し示していることは間違いない。

 

医療の分野でも、「地域」が一つのキーワードとなっている。

 

国は、2006年の医療法改正で、「医療計画制度」の見直しをする予定だ。そこで目指しているのが、地域の特性に合った医療サービスの整備への転換である。

 

医療計画制度は、1985年に制度化され、都道府県は、人口数十万人単位で設定された「医療圏」ごとに、原則、病院のベッド数の総量だけを規制してきた。「脳卒中が多い」などの地域ならでの特性や、「脳外科や眼科が少ない」といった地域における診療科の偏在には対応できていなかったのが実情だ。

 

利用者の立場から見れば驚きだが、量的整備に重心が置かれた時代はともかく、医療の質が問われるようになり、医療費の膨張が国家的課題となってきた今の時代は、単に数量を規制しているだけでは済まない。地域に多い病気や不足している診療科などを科学的にきちんと分析し、診療科などの再配置を検討し、医師同士、また、病診(病院と診療所)間の連携を図りながら、地域医療の改革を進めることが期待される。

 

もちろん、診療科の再配置には、医療者の確保や異動などの難しい問題が伴う。住民側の理解も不可欠になる。口で言うほど実行するのは容易ではないが、利便性・効率性を高めるための方策として、やはり「地域」は一つのカギを握ると言っていいだろう。

 

子育ての分野でも、「地域」が重要なのは言うまでもない。「次世代育成支援対策推進法」に基づき、この4月から、地方自治体と企業で、子育て支援について自ら定めた「行動計画」が実施される。地方自治体、とりわけ市町村では、その地域の特性に応じた子育て支援サービスの提供が期待されている。

 

地域重視の政策転換で、期待と同時に懸念されるのが、地域間の格差の問題だ。地域は互いに競争し、特性を持ち、その地域ならではの政策を展開してほしい。と同時に、ある一定水準までは、全国的に、サービスの質を高めてもらわないと困るというのも事実である。より良いサービスをする地域へ移動する、いわゆる「足による投票」ももちろんあるが、移動が難しい層もいる。住民も口を出し、官民協力しながら地域の特性を高めることが必要と言えよう。

 

*この1年間、大変お世話になりました。どうもありがとうございました。(了)

←前のページへ戻る Page Top▲