こくほ随想

「女性と年金・離婚分割」

2004年6月に成立した年金改革で、女性とかかわりの深い年金制度の改革が、幾つか行われることが決まった。その代表格といえ、新聞の読者からの関心も高いのが、「離婚時の年金分割制度」の導入だ。

 

現在の制度では、専業主婦が離婚した場合、妻が受け取る年金額が低いために、老後の生活が困窮するという問題がある。それを心配して、離婚したくてもできない状況を指す「年金縛り」という言葉もある。

 

サラリーマンの夫と専業主婦の妻が離婚した場合、夫が受け取る年金は自分名義の厚生年金と基礎年金、妻は自分名義の基礎年金のみで、これは満額でも月額約6.6万円。

 

夫が受け取る厚生年金には、夫婦二人で老後を過ごす生活費が含まれているが、別れれば、それはすべて名義がある夫のものになってしまう。夫が外で十分働けるよう、家事や育児、介護などを通じて協力し、ともに生活を築いてきた妻の貢献は考慮されない。

 

さらに、もしも別れた夫が後に別の女性と再婚し、その後に死亡した場合、夫の遺族厚生年金はすべて後妻のもとへいくことになる。そのもとになる厚生年金を増やす努力をともにした元妻の貢献は何も評価されない。

 

2004年年金改革では、こうした妻の貢献が実るようにし、あわせて、多様な生き方・働き方に対応できる制度にしようと、離婚時の年金分割制度が導入されることになった。基礎年金は既に分割されているので、分けられるのは厚生年金である。

導入は二段階にわたって行われ、まず、2007年4月から、当事者の合意か裁判所の決定があれば、結婚していた期間の厚生年金が、半分を限度に分割される。分割されれば、妻は別れた夫が死亡した後も、厚生年金の最大半分を、自分が死ぬまで、生涯受け取ることができる。

 

翌2008年4月からは、結婚していた期間の厚生年金の半分が例外なく分割される。夫婦の合意がなくても年金は分けられ、妻の権利がより強く保障されることになる。

 

いずれも、対象となるのは、法施行後に成立した離婚で、その前の離婚には適用されない。また、2007年4月に導入される夫婦の合意や裁判所の決定による分割は、2007年4月以前の結婚期間にさかのぼって適用されるが、2008年4月以降の強制分割の場合は、2008年4月以降の結婚期間に相当する厚生年金が分割の対象となる。

 

この制度の導入で、離婚が増えるか減るかについては、識者の間でもさまざまな見方がある。「一日も早い分割制度の導入を」という電話を女性の読者の方から時々いただくから、2007年以降に離婚は増えるような気がするが、ふたを開けてみないとわからない。

 

年間の婚姻件数約80万件に対し、年間の離婚件数はその約3分の1。結婚期間20年以上の、いわゆる熟年離婚が珍しくなくなった今では、多くの夫婦にとって、この制度の導入は他人事ではないといえよう。

年金分割は、現実に困っている女性を救うだけでなく、「一生外で働かず、離婚もしない専業主婦」を念頭に作られた現在の年金制度を見直す上でも、評価できる。だが、問題はこれで解決するわけではない。

そもそも、なぜ女性が低年金に陥りがちなのか。そこを十分、考える必要がある。

 

男女間の賃金格差はなぜ生じるのか。出産・育児期間中の配慮や評価をどう行うのか。さらに、「仕事と家庭のバランス」を男女がどう取って、どう分かち合う社会を作っていくのか――こうした点についての議論や制度見直しがないと、女性の低年金問題はなかなか解決しない。

 

これは年金制度だけにとどまらない。税制や雇用などの見直しも必要となる。

離婚時の分割制度の導入を機に、多様な生き方や働き方に向けた議論と、制度の見直しが進むことを期待したい。

←前のページへ戻る Page Top▲