こくほ随想

「介護保険改革と首長の声」

介護保険制度の改革論議がヤマ場を迎えている。

 

厚生労働省は10月末に、保険料負担者とサービス受給者の対象範囲を拡大した場合の介護保険料の試算を公表した。

現在は、40歳以上が保険料を支払い、原則65歳以上がサービスを受けている。これを、例えば、20歳以上が保険料を払い、0歳からサービスを受けられるようにし、しかも、20歳から39歳までの負担額を40歳以上の半額に抑えた場合、20歳から39歳が支払う保険料は2006年度時点で月額1700円(本人負担はこの半額)になるという。同省では、こうした年齢別などの試算を16パターン示し、年内に議論をまとめたいとしている。

 

しかし、対象範囲の拡大は、若者や、保険料を半額負担する立場の企業にとっては、新たな負担増となるだけに、一筋縄ではいかないとの見方が強い。実際、今年前半の年金改革で「負担増」「給付減」に言及し、支持率を下げた与党内には、拡大への慎重論が強まっているのが実情だ。

 

読売新聞社では、同省の試算公表に先立ち、全国の3053市区町村に「介護保険全国自治体アンケート」を実施した。回答を得たのは、うち、2590市区町村。目をひいたのは、やはり「拡大」に対する回答で、市区町村長の7割が年齢範囲の拡大には「反対」であることがわかった。

 

保険料負担者を20歳以上などに引き下げ、サービス受給者を若い障害者などにも広げることに賛成か反対かを問う質問に、「反対」と答えたのは 21%、「どちらかといえば反対」は48%で、否定派はあわせて69%。一方、「賛成」は5%、「どちらかといえば賛成」は24%で、肯定派は合計29%だった。

 

反対の理由で最も多かったのが、「負担が増える若い世代や企業の理解が得られない」の65%だ。次いで、「高齢者と障害者とでは必要なサービスが違う」41%、「障害者福祉サービスは税金でまかなうべきだ」29%、「障害者に保険料や自己負担を求めるのは難しい」20%などだった。

 

保険料の徴収業務を担う市区町村にとっては、新たな負担層である若者が保険料を払ってくれるかどうかは大きな気がかりだ。20、30歳代で障害を持ち、サービスを受ける可能性は2%程度といわれる。掛け捨て感が強い若者に保険料負担を強いれば、保険料未納率が4割近くに達した国民年金の二の舞になるとの懸念が、多くの自治体から聞かれた。

 

また、厚生労働省の試算が10月末になるまで示されなかったように、「国の情報提供が遅く、改革後の姿が見えない」という声も、多くの市区町村の間から聞かれた。

 

一方、賛成の理由を見てみると、「保険料の上昇が抑えられ、介護保険財政が安定する」が最多で53%。次いで「高齢者も障害者も基本的に必要な介護サービスは同じだから」45%、「国民が障害者福祉を身近なこととして理解できるようになる」28%、「障害者のサービスの基盤整備が進む」19%などだった。

ここからは、保険料の高騰や保険財政の悪化に悩み、何とか財政基盤の強化や安定を図りたいとする自治体の様子がうかがえる。さらに、海外先進国の多くがそうであるように、「高齢者だけでなく、介護が必要なすべての人を地域で支える仕組みが必要だ」とする意見も少なからぬ自治体から寄せられた。

 

この範囲拡大論議は、介護保険財政や高齢者介護の理念論だけでなく、障害者福祉財政や障害者福祉の理念論も含まれるだけに、複雑だ。高齢者介護も障害者福祉も財源は税で行うべきという首長もいれば、あらゆる人が混在する地域での福祉を進めるためには、介護保険の範囲を拡大した方がいいと話す首長もいる。いずれにしても、保険運営を担う自治体の首長の7割が反対との意見を表明した事実は大きく、12月の議論決着に向けてどういう判定につながるかが注目される。

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