こくほ随想

「市町村と介護保険見直し」

2000年に始まった介護保険制度は、施行後5年をめどに、制度全般を見直すことが介護保険法で定められている。施行後まる4年が過ぎ、改正法案提出を来年に控え、その見直しの具体的内容が明らかになってきた。

 

最も大きな改正内容は、被保険者の範囲拡大と障害者福祉との統合をどうするかだが、これについては、まだ議論が尽くされたとはいえない。この秋から冬にかけての審議が鍵を握る。一方、それ以外の、いわゆる介護保険本体の改正も、現行制度の仕組みを大きく変える、大幅な見直しといえる。

 

主な見直しのポイントをみてみよう。今回の改正の目玉といえそうなのが、「予防給付」の新設だ。要支援、要介護1など、軽度の要介護者向けに新たに設けられる給付で、要介護認定段階で予防給付を受けることが適当と判断された場合、従来の介護給付ではなく、新設の予防給付を受けることになる。予防給付の内容として想定されているのは、筋力向上トレーニングや転倒骨折予防、低栄養予防、口腔ケア、閉じこもり予防など。予防のプランは市町村が主体となり、原則、市町村単位に創設される「地域包括支援センター(仮称)」で立てられる。一定期間後には効果が測定され、予防が本当に役立っているかが検証される。さらに、介護報酬の支払われ方も、「月単位」や「プログラム単位」にするなど、包括的な設定にすることが検討されている。

 

「地域密着型サービス」の新設も、今回の見直しのもう一つの目玉と言える。住み慣れた地域で、できるだけ長く暮らすことを念頭に提供される介護保険のサービスのことで、従来型の全国に共通する「一般的なサービス」と、サービス利用が主として市町村内にとどまり、地域の独自性を生かす「地域密着型サービス」の二本立てとなる。

 

サービス内容は、通い、泊まりなどの機能を備えた「小規模多機能型サービス」や夜間でもホームヘルパーが訪れる「地域夜間対応型サービス」、痴ほうの「見守り型サービス」など。既に現制度に組み込まれている「痴ほう性グループホーム」も、地域密着型サービスとして、新たに位置づけられる見込みだ。

地域密着型サービスで注目されるのは、市町村が事業者の指定や指導監督に権限を持つことだ。これまで、市町村はそうした権限を持たなかったために、基盤整備やサービス給付、保険料の設定の点で、保険者として、問題を抱える場合も少なくなかった。しかし、今後は、そうした問題が縮小することが、この施策により、期待される。市町村はまた、介護報酬に対しても、一定程度の権限を持つ方向で検討されている。

 

このほか、今回の改正では、施設入所者を重度に限定することや、食費や光熱費など、施設入所者の自己負担を見直すことなども行われる予定だ。

 

「予防給付」や「地域密着型サービス」については、さまざまな疑問点や課題点が識者の間からも指摘されており、このまま厚生労働省の思惑通りに制度設計が進むとは限らない。その議論は今後、活発化すると思われるが、一連の改正内容を見ていると、今回の改正の主眼点の一つが、保険者である市町村の「機能強化」に置かれていることがわかる。一定の権限を与える代わりに、きちっと、保険者としての仕事も果たしてもらう。それが、今回の改正のメッセージの一つといえる。

 

市町村の権限拡大については、「措置の時代に逆戻りするのではないか」と心配する声もなくはない。しかし、少子高齢化や、一人暮らしの「単身」化が進む中で、「地域」の果たす役割がますます大きくなっていることを考えると、住民に最も身近な市町村が、いかに住民本位に制度を運営できるかが、「地域ケア」や「地域再生」の鍵を握っているともいえるだろう。市町村のやる気が試される改正であり、それ次第で、地域格差が拡大する可能性は十分にある。

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