できない理由を考えるより、何か一つでもやってみる

私たちは、いつでも「今」を生きています。
持っている時間は、ただただ「今」しかありません。
それなのに、「過去」のたった1回の経験を過度に悪く評価し、
そのことにとらわれて前に進めないことがあります。

何年か前のプロジェクトで不本意な出来事があった。あれ以来、お客様にも顔向けできないし、似たようなプロジェクトに参加するのはできれば避けたい

以前、こう嘆いている男性がいました。そのプロジェクトには私も少し関係していたので状況を理解していたつもりですが、そもそも、失敗やトラブルがあったわけではなく、関係者にとっては、とっくに過ぎたことになっていました。にもかかわらず、彼一人、いつまでも「あの時のことが忘れられないので、新しい挑戦はできない」と言い続けるのです。

その話が出るたびに、「大丈夫だよ。そもそも、失敗でもなんでもない。単に、自分がうまくできなかったと思っているだけでしょう?気にせず、再挑戦してみたら?」と励ましたものの、「いえ、あの時のことを考えると、申し訳なくて、自分が許せないのです」と、かたくなに遠い過去にこだわっていました。

このようなやり取りを繰り返していたある時、ふと気づいたのです。『彼には、言い訳が必要なのだ』と。新しいことに挑戦するためには勇気が必要ですが、その勇気を出すことができない彼にとって「ちゃんとした理由がある」と思うことが大事なのだと。おそらく無意識のうちに「できない言い訳」を探し、しかも「自分」が「やらない」のではなく、「相手に申し訳ないからやれない」という言い方をすることでうまく気持ちの折り合いをつけていたようにも思います。

この例のように、過去にとらわれて、「〇〇だからできない」と言い訳を思い浮かべ、行動することを躊躇してしまうことは誰にでもあります。でも、過去は変えようがなく、今とそれに続く未来しか変えられないのに、「今」を考えられないなんてもったいないです。どうしたら、この状態から抜け出すことができるのでしょうか。

どうしてみんなが参加できる時間帯で会議を設定しないのですか!?

これは、私の同僚の男性が小学校2年生のとき、授業中に担任教師から言われた言葉だそうです。彼がアラフォーの現在でもこの言葉を鮮明に覚えているのは、7〜8歳の彼にとって衝撃的だったからだと言います。

「え?なんでも自分で選んでいいんだ。選べるんだ!」そんな風に思ったら、とても大きな世界が目の前に広がるような気がしたと彼は話してくれました。

「選べる」ことを意識しながら、小さな一歩を踏み出してみる

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「自分で選べるし、選んでいいんだ」という感覚はとても大切です。実際、自分が何をどう考え、どう行動するかは、たいていの場合、自分で選んでいます。行動しないこともまた自分が選んでいるのです。「できない言い訳」を頭に思い浮かべていたら、「“できない”んじゃない。自分で言い訳をみつけ、“やらないこと”を選んでいるのだ」と冷静な頭で考えてみることです。

たった1回の過去の体験にいつまでもとらわれるのではなく、「今」に目を向けて、何をすればよいのかを考えてみる。そして、ほんの小さな一歩を踏み出してみる。1か所に留まっていても事態は何も変わりませんが、小さな一歩を踏み出せば、それが、自分を取り巻く世界を変えるきっかけになるはずです。

田中 淳子(たなか じゅんこ)

グローバルナレッジネットワーク株式会社 人材教育コンサルタント/産業カウンセラー。1986年日本DEC入社、IT技術教育に従事した後、コミュニケーションなどビジネススキル教育を手掛けるようになる。1996年から現職。著書に『はじめての後輩指導』(経団連出版)、『現場で実践!若手を育てる47のテクニック』(日経BP社)など。

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