監修:古賀良彦(杏林大学医学部精神神経科学教室教授)
睡眠は、心身のメンテナンスをし、疲れをとり、明日への活力を養う大切な時間。生涯、不要になることはありませんが、
人によって必要な時間は異なります。あなたは必要な睡眠が足りていますか?
睡眠中は、ただ体を休めるだけではなく、心身の修復や記憶の整理をしています。
まず体は、眠っている間に成長ホルモンを分泌し、疲れをとり、傷んだ部分を修復します。
また、日中に見たことや学習したことを脳に定着させたり、整理したりするのも睡眠の効果です。つまり、睡眠は心身の休息とメンテナンスのためにあるのです。
ですから睡眠時間が不足すると、メンテナンスも不十分になり、疲れがとれなかったり、学習の効果が低くなったりします。
また、寝る前に食べ過ぎたり飲み過ぎたりすると、消化・吸収・分解などのために余分な労力を使い、十分に休養がとれません。
日本人は、平均7時間程度の睡眠をとっています。現代人は年々睡眠時間が短くなる傾向にあり、半世紀前に比べると、平均して約1時間の差があります。
実際の睡眠時間が短くなったからといって、必要な睡眠時間が短くなるわけではありません。もともと、必要な睡眠時間は人によって違います。入眠がスムーズで、朝はスッキリと目覚め、熟睡感があり、疲れが取れていて不安感がなく、日中も元気に働けるようなら、睡眠は足りています。そうでなければ、睡眠が足りていない可能性が高い状態です。
睡眠不足は、長期間続くと解消できなくなり、次第に心身の不調につながります。
現代人の睡眠時間の短縮傾向は、24時間営業のお店の普及やインターネットや携帯電話(スマートフォン等含む)の発達などにより、どの時間帯でも仕事や取引ができる環境になってきたことなども、影響しているでしょう。寝る直前までこれらを使用していることも多いようです。
人間は強い光を浴びると、眠りにくくなります。ですから朝、日の光を浴びると目が覚めるのです。
また、携帯電話などで使われている青色の光は、特に眠りを妨げることが知られています。
床に就いてもなかなか眠れない人は、1時間前くらいから強い光を避け、難しいことを考えず、のんびり過ごすと、入眠しやすくなります。
人間の深部の体温は、副交感神経が優位となる夕方から早朝にかけて徐々に下がります。体温が下がってくると、心身は自然と休息モードに入り、眠くなります。
ところが、入浴直後などで体温が高いままだと、なかなか寝つけないことになります。床に就く2時間くらい前までには、入浴や運動などの体温が上がる活動をすませましょう。
眠る前は憂鬱な気分だったのに、一晩ぐっすり眠ったらスッキリしていたという経験はないでしょうか。実は、これも睡眠の効果です。
十分な睡眠が得られないと、深い睡眠の間に分泌される疲労回復物質が十分に分泌されず、心身のメンテナンスが不十分になります。そのため心身のストレス解消は不十分になってしまうのです。
精神・神経科学振興財団と日本睡眠学会の共同研究によると、睡眠不足からくる生産性の低下で約3兆円、欠勤、遅刻、早退、交通事故や産業事故などで約5,000億円。医療費も加えると総計約5兆円の経済的損失があると推計されています。