自覚症状の中で、男性で最も多いのが腰痛。女性でも肩こりに次いで腰痛が挙げられています。
注:有訴者には入院者は含まないが、分母となる世帯人員には入院者を含む
厚生労働省「平成22年国民生活基礎調査」より
スイス・チューリッヒ大学が椎間板ヘルニアの患者さんを調査したところ、神経への圧迫が強いため痛みを感じているのは全体の約1/3で、約2/3は心の問題により痛みが引き起こされていることがわかりました。
椎間板ヘルニアの患者さんの痛みの原因
(1995年スイス・チューリッヒ大学調査による)
若者から中高年まで、男女を問わず、 多くの人が苦しんでいる腰痛。
病院で検査をしても、 その80%以上は痛みの原因が特定できないといわれています。
中でも原因が見つかりにくいのは、慢性腰痛です。
その痛みには、精神的なストレスが深くかかわっていることが近年わかってきました。
歩く、座る、作業をする、横になるなど、私たちは日常生活の多くの場面で腰を使って生活しています。
腰は文字通り体の"要(かなめ)"ですが、多くの人が腰痛に悩まされ、治りにくいのは、二本足で立って生活する私たちの動作の中心となる部位だからです。
人間の背骨はほぼ真っすぐに近いS字状で、直立歩行をする体を支えています。しかし、頭部や胴部の重さが腰に集中する上、ふだんの生活では前かがみでいろいろな動作をすることが多くあります。中腰になったとき、腰には立っているときの実に3~4倍の圧力がかかっています。
ですから、右に挙げたような姿勢や動作が多い人ほど、腰への負担が大きいため、腰痛が生じやすくなります。また、腰の筋肉は加齢や運動不足によって衰えやすく、これまで、診察や画像検査で異常が見つからない腰痛については、こうした姿勢の悪さや筋力の低下が大きな原因と考えられてきました。
しかし、実際にはそれだけでは説明できない、原因不明の腰痛がたくさんあります。例えば、原因がはっきりしている椎間板ヘルニアでも、痛みが強い人と痛みのない人がいます。痛みの現れ方もさまざまですが、実はこうした痛みには、ストレスなど心の問題が深くかかわっているケースが多いことが判明しました(右グラフ)。
さらに、近年解明されてきたのが、痛みをコントロールするドーパミンシステムという脳のメカニズムです。これは、痛いはずの状況にあっても、その痛みを抑制するドーパミンという脳内物質が大量に分泌されて、感じる痛みを軽減させながら身を守る、もともと脳に備わっている機能です。
しかし、日常的にストレスを受け続けていると、脳内物質のバランスが崩れ、このシステムが働かなくなります。するとドーパミンの分泌が減って痛みを抑えられなくなり、ますます痛く感じます。その上、その痛みがストレスとなってドーパミンの分泌がさらに少なくなり、痛みが慢性化するという悪循環です(下図)。
あなたも治りにくい腰痛で苦しんでいませんか? その腰痛の背景にストレスがたまっていないか、ふり返ってみてください。ストレスは治る腰痛も長期化させて痛みを慢性化させる原因です。
福島県立医科大学整形外科学講座の調査でも、慢性腰痛の患者さんには、ストレスがたまっている人やうつ状態の人が非常に多いことがわかっています。同大学では、こうした「心因性腰痛」の患者さんに対しては、整形外科と精神科が連携し、体と心の両面から治療を行っています。
ストレスによる慢性腰痛を何年間も抱えていると、よけいストレスに弱くなるもの。以前なら耐えられたストレス状況でもすぐに腰痛になってはね返ってきたりします。
誰にでも日頃の上手なストレス解消は大切ですが、特に"腰痛もち"の人は、心をいやす"心の処方せん"が痛みの強弱を左右することをお忘れなく!
ストレスが続くと腰痛が重症化して、仕事を休むことが多くなり、職場の人間関係まで悪くなる人もいます。こういう人こそ、腰痛は心からのSOSサインだと自覚して、まずは心のケアを。
また、ウォーキングなど適度な運動習慣も欠かせません。運動不足で腹筋や背筋の筋力が落ちれば、ますます腰痛体質から抜けられなくなってしまいます。