健診で肝機能に「異常あり」と指摘される人が増えています。
しかも注目すべきは、それがお酒をよく飲む人に限ったことではないという点です。
肝臓は「沈黙の臓器」と呼ばれているように、症状がかなり進行しないと自覚症状は現れません。
SOSが出る前に、肝臓を上手にいたわる工夫を身につけましょう。
資料:厚生労働省「定期健康診断実施結果」(平成21年)
数値は島村トータル・ケア・クリニックの基準値に基づく
重要な仕事をこなす人体最大の化学工場
肝臓の病気にはウイルスによるものと、生活習慣によるものがあります。日頃から注意しなければならないのが「脂肪肝」です。
脂肪肝とは、肝臓に中性脂肪がたまり過ぎた状態。日本人で主に多い原因は食べ過ぎです。摂取エネルギーがオーバーした状態が続くと、余分な脂質や糖質から中性脂肪が合成され、肝臓の中にたまります。そこに運動不足が重なれば、さらに中性脂肪は増える一方です。
また、お酒の飲み過ぎによる脂肪肝も少なくありません。アルコール自体が中性脂肪に変化して肝臓にたまるだけでなく、肝臓はアルコールを分解処理するために酷使されます。さらに、ストレスやたばこ、薬剤の服用なども肝臓を疲弊させ、脂肪肝を進めるリスクです。
脂肪肝は自覚症状がなく、それ自体は深刻な病気ではないのですが、問題は脂肪肝を招いている生活習慣です。放っておくと、気づかぬうちに肝炎から肝硬変、さらには肝がんへと進行する危険性が高まります。また、肝臓のダメージのみにとどまらず、血管では動脈硬化が進行。糖尿病などの生活習慣病を発症するリスクが高まることもわかっています。
そうなる前に、肝機能低下を招く生活習慣を見直して、日夜フル活動の肝臓をいたわり、肝臓の健康に気を配ることが大切です。
脂肪肝が進むと、肝臓が炎症を起こす肝炎へと進行します。肝炎というとアルコール性肝炎がよく知られていますが、お酒をまったく飲まないからといって、肝炎になりにくいとは限りません。
最近、特に増えているのが「NASH(非アルコール性脂肪肝炎)」。その名の通り、お酒を飲まなくても肝細胞に炎症が起こる病気で、進行が早いという特徴があります。また、肝硬変に移行しやすく、そのまま肝がんになるケースもあります。
まだ、はっきりとした原因はわかっていませんが、ストレスや喫煙などによる活性酸素の影響が指摘されています。肝臓にたまった中性脂肪が活性酸素によって炎症を起こすことで進行するともいわれます。また内臓の脂肪細胞が増えると、血液中の糖を細胞に取り込むインスリンの働きを妨げる悪玉物質が分泌され、それが肝臓の炎症に関与している可能性もあります。
自覚症状がほとんどなく、静かに進行するため気づきにくく、治療法もまだ確立されていませんが、肥満の解消と活性酸素の害を最小限に抑えることが有効と考えられています。
肝炎はお酒を飲む人も飲まない人も、まずは体重コントロールが予防への第一歩です。
放置しておくとこわい脂肪肝ですが、その原因となる生活習慣の見直しで改善することが可能です。
肝臓の血流促進のためにも、消費エネルギーを増やすためにも、まず心掛けたいのが運動の習慣です。運動といっても、激しいものではなく、散歩やストレッチ、体操などの軽いもので十分。ただし、20分でも30分でも毎日行うことがポイントです。続けることで代謝がよくなり、肝臓の働きが活発化してきます。また適度な運動は、ストレス解消にも役立ちます。
もう一つ、働き詰めの肝臓には、いやしの時間が必要です。それには、夕食は早めにとり、毎日十分な睡眠をとること。それが、疲れた肝臓を元気にするいちばんの方法です。
食事は食べ過ぎないことが肝心です。特に、早食い、ながら食い、まとめ食いをする人は、適量よりも食べ過ぎてしまう傾向があるので、ゆっくりと、よくかんで食べましょう。一口30回以上かむようにすると、満腹サインが脳に的確に伝わり、少なめの量に慣れてきます。
食事はエネルギーのとり過ぎに気をつけて、1日3食、栄養バランスのよいものを。特に肝細胞の修復には、その材料となる良質のたんぱく質をきちんととることが大切です。また、肝臓はストレスやたばこなど、活性酸素によるダメージに弱いので、NASHなどの炎症を予防するためにも、抗酸化成分を多く含む食品を積極的にとりましょう。和食中心の家庭料理なら、そうした条件が自然に整います。
食習慣の欧米化により、高脂肪・高たんぱく食に傾きがちです。一汁三菜を基本とした和食は、穀類、豆類、野菜、海藻、きのこ類などが幅広くとれ、自然に栄養バランスも整います。また、おかずだけでなく、ご飯も半膳以上食べましょう。
抗酸化作用のあるビタミンA(βカロテン)・C・Eは、緑黄色野菜や根菜、ごまなどに豊富。また、だいずのサポニンなども抗酸化成分の一種です。
献立は、脂肪の多い肉類や油物は控え目にして、とり肉や白身魚、貝類、豆腐や納豆などのだいず製品から、良質のたんぱく質をとりましょう。塩分少なめ、昔ながらの家庭料理をイメージしましょう。
京都府立医科大学卒業。国立がんセンター、千葉西総合病院などを経て、2001年、千葉県松戸市に島村トータル・ケア・クリニックを開院。食餌療法を重視し、患者の心、体、生活環境などすべての面を考えた全人的な医療を心掛け、肝疾患・がんの先端治療を行うとともに、在宅ホスピスにも精力的に取り組む。